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株主に帰属すべきキャッシューフローと債権者に帰属するキャッシューフローとを峻別して、株主に帰属すべきものは、いずれは、すべて配当金の形で株主に支払われるようになることから、このような定義になったのだと思います。
これまで説明してきましたように、キャッシューフローをベースに企業価値を算出して、そこから株式の価値を計算していく評価方法をDCF法といっています。
ディスカウンテッドーキャッシューフローの略です。
理論的には、DCF法こそがまさに正しい株式評価の方法ですが、1つ欠陥があります。
将来のキャッシューフローを予測するのが難しいということです。
評価を行なう人の思惑によって、恣意的に高めに見積もったり、低めに予測されたりしてしまうリスクもつきまといます。
このような欠陥があるにせよ、DCF法は他の方法に比べて最も理論的に株式の価値を計算できる方法です。
したがって実務の世界でも、少なくとも国際的にはDCF法が主流となっています。
たとえば、ある企業が他の会社を買収しようとする場合、買収をかける企業は自社の株主に対して買収ターゲットの価格が妥当である旨を説明できなくてはなりません。
株式評価を間違って買収しますと、株主代表訴訟などで訴えられる可能性も出てきます。特に海外の投資家などは理論的な部分があやふやな株式評価には納得してくれません。
したがって、実務の世界でもおのずとDCF法が使われることが多くなってきました。
最近は日本の企業も海外の株主を多く抱え、事業活動の舞台も国際的になっています。
企業買収を行なう際も、外資系の投資銀行にアドバイザーになってもらったり、買収価格が妥当である旨の意見書を求めたりするようになってきました。
外資系の投資銀行では、買収価格が妥当である旨の意見書のことをフェアネスーオピニオンと言っています。
投資銀行はフェアネスーオピニオンの作成には慎重です。
株主などから「買収価格は妥当と書いてあったが、結局は高すぎて失敗したじゃないか」と訴訟を受けるリスクがあるからです。
このため投資銀行が請求する手数料も億円単位の高いものになります。
ある時、私は大企業の副社長から呼び出しを受けました。
「I崎さん、高い手数料を払って、お宅にフェアネスーオピニオンの作成をお願いしたが、ページ数がこんなに少ない薄っぺらなものじゃないか。
普通は電話帳二上二冊のものをよこすでしょう」 たしかに投資銀行が顧客に提出するフェアネスーオピニオンは、さほどのページ数にならないことも多いのですが、そこに至るバックアップ資料や計算過程は、それこそ電話帳2〜三冊をゆうに超すことも多々あります。
さて、日本ではDCF法の他にも、従来次の三つの方法による株式評価が行なわれてきています。
いずれも理論的には難がありますが、使い勝手の面ではDCF法に勝るケースもあるようです。
収益還元方式企業が将来にわたって上げる収益を現在価値に割り戻すことによって企業価値を算定し、株数で割って株価を出す方法です。
DCF法も広い意味では収益還元法の1種と言えるのかもしれません。
一般に収益還元法ではキャッシユーフローに代わる簡易な指標として税引き後利益、経常利益、あるいは、配当金(配当還元方式と言います)などを使います。
類似会社比準方式ある企業と同業種の会社の株式が市場で、いくらで取引されているかを参考にしながら、その企業との比較の中で株価を算定していく方法です。
比較に際して使う指標は、利益、キャッシユーフロー、売上などです。
「A社はB社の二倍の利益を上げているから、企業価値も二倍だ」といったようなロジックで評価を進めていきます。
日本の国税庁が相続税算出などに際して未上場会社株式を評価する際にも、後述の純資産株価方式と併用して、一種の類似会社比準方式が使われています。
純資産株価方式卜会計上の純資産額(総資産から負債を引いたもの)産であるとの考えから、株数で割って株価を出す方法です。
その際、いては時価に再評価します。
帳簿に載らない簿外の資産や負債についても加えていき、極力実体に近い形で正味資産を算出していきます。
「将来企業が生み出すことになるキャッシューフローを予想して、もとに企業の価値を算出し、株価を導き出す」という考え方は当然のことながら、企業とは生き物であり、将来も事業を継続していくということがベースとなっています。
こうしたことからDCF法や収益還元法は、ゴーイングーコンサーン(Going Concern ― 「生きたまま進む」との前提)に基づく企業評価と言っています。
これに対して、純資産株価は、静態的に今の時点での企業の価値を出すものです。
今、企業を清算して個々の資産に切り売りしていった場合、いくら残るかという清算価値に近いものになります。
「将来を予想して決める。
現在の静態的な価値によっては決定しない」株式を評価する時のこのスタンスは、実はわれわれがものごとを決める時の考え方につながるようなところもあります。
たとえば、外資系の投資銀行に勤めていますと、よく若い人の進路についての相談を受けることがあります。
このまま投資銀行を続けていこうか、あるいは転職しようかといった悩みを同じ会社の若い人から持ちかけられることも多いのですが、なかには取引先の企業の幹部の方からの相談もあります。
「うちの息子が就職先として役所に行くか、外資系かで迷っているので一度会って相談にのってやって欲しい」といった内容です。
若い人が悩む1つの要因は会社によって年収が違うことです。
行きたい先の年収が高いとは限りません。
たしかに就職先(あるいは転職先)を決める際、そこが当初いくらの年収を払ってくれるかは重要なファクターです。
もっと重要なのはそこであなたがどれだけ能力を磨くことが出来、実力を高められるかです。
その結果、あなたの将来の年収は大きく変わってきます。
私自身、外資系に移ると決めた時、外資系企業四社からオファーを受けました。
結果的には「保証年収」という条件だけで見ますと一番低いところを選びました。
一番高く条件を提示してきたところの約8分の1でした。
ただし、面接の時には上司に当たる人とこの点だけは確認しました。
「この提示された数字はあくまでも最低限であって、実績を上げたらきちんと年収も上げて欲しい」 現在の条件を並べてその中から比較するのではなく、将来のポテンシャル、将来にわたってキャッシューフローを引き出す力で比較するI株式を評価する時のこの考え方は、われわれ自身が就職先を決める時にも「自然と」使っている考え方ではないでしょうか。
ところで、DCF法の欠陥は、先ほど説明しましたように、理論的には正しくとも、企業が将来生み出すキャッシューフローを予想することが難しいという現実面にあります。
これから三〜4年後くらいまでの収益はおおよそ予想できるでしょう。
10年後のキャッシューフローを予想するとなると、至難の業になってきます。
そこである年限以降については、その時点での企業価値を別の方法で予測するという折衷的な方法が取られることが、現実には多くあります。
具体的にはたとえば5年後の企業価値を、同業他社の売上高や収益と比較して、一定の数値を掛けて算出するやり方です。
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